大富豪家2.0の日記全体に公開

2006年11月26日
19:14
 iWoz
http://www.hondana.org/C1FDB0E6/0393061434.html

Apple創業者のひとりSteve Wozniak(Woz)のはじめての自伝だというので読んでみた。Gina SmithというライターがWozに55回もインタビューして本にしたらしい。もうひとりの創業者であるSteve Jobsは非常に有名であるが、WozはAppleを成功に導いたApple IIの設計者であるスーパーエンジニアであるということはエンジニアには広く知られている話であり、Apple IIにまつわる裏話や最近の状況、Jobsとの確執などについて知ることができるかと思ったのである。

Wozは父親の影響をうけてエンジニアリング魂に目覚め、小学生のころからアマチュア無線をやったり発明工作賞みたいなのを獲りまくったりしていたのだが、中学のころからは論理回路や計算機に目覚めてその方向のハッキング力を炸裂させてたらしい。Wozはとにかく論理回路をエレガントに小さく作ることに執念を燃やす人物で、回路を実際に作ってみるだけでなく、実在する計算機を独自に紙の上でエレガントに再設計する練習をしたりしていたらしい。そういう素養を見込まれてヒューレットパッカード(HP)で電卓などを設計する仕事をしていたのだが、そのころ新たに出現したマイクロプロセッサに出会い、キーボードつきでBASICが使えてカラー表示できるパソコンを作りあげたのだそうである。

WozがApple IIを作っていたころ、私は高校のクラブでマイコンを組み立てたりしていたので、彼の当時の行動や技術について非常によくわかる。当時はマイコンが出始めた頃で、電子回路マニアはこぞってマイコンに手を出したものである。私のクラブではメンバ数人で手分けしてBASICの動くマイコンをIntelの8008というチップで作りあげたものだが、同じころWozははるかにエレガントなApple IIを独力で作ったというから度外れている。HPから帰社後に回路設計からBASIC言語の実装まで全部ひとりでやったということが驚きであるし、Apple IIの回路のエレガントさやカラー生成回路の無茶さは感動的であった。

さて、いかにしてオタクのハッカーがApple IIを作りあげたかについてはよく理解できたのだが、Apple IIを設計するに至るまでの話が全体の2/3ぐらいを占めており、スキャンダル的に期待した話は全く知ることができなかった。Jobsとどうやって知り合ったかとかどういう話をしたかなどについてはほとんど出てこないし、Apple IIの成功の後の話もほとんど書かれていない。「Macintosh」という単語がそもそもほとんど出てこないし、Lisaという単語は最後に一度だけしか出てこなかった。Macintoshという単語が出たのは、Macintoshの開発に金が回された結果Apple IIの部隊が冷遇されたという文脈の中でだけである。Appleお家芸の内紛話も全く出てこない。

このように肝心の話がおおいに抜けているので肩すかしを食ってしまった。Apple IIのすべてを自作したことはエンジニアリング的にはものすごいことではあるが、パーソナルコンピュータを「発明した」という表現をしているのは言いすぎである。すでにAltairのような市販マイコンやBasicが存在したわけだし、「発明」というよりは「凄い工夫」とか「ハッキング」という方が適切だろう。また、キーボードとディスプレイつき計算機をはじめて作ったと書いているのも言いすぎだと思う。キーボードとディスプレイつきの「安い」計算機をはじめて作ったというべきである。

離婚に至るまでの前妻との喧嘩については書いてあるのにJobsとの喧嘩について書いてないのが気持ち悪い。Apple IIのスロット数の話で喧嘩したのが最初の喧嘩だったとか書いてあるにもかかわらず、その後の喧嘩については一言も書いていない。Jobsに序文を書いてもらうつもりだったので悪口を書かなかったのかもしれないが消化に悪いことである。結局Jobsは序文を断わったそうだが。その他、何故WozはMacintoshに全然かかわらなかったのかも不思議だし、Appleを出て作ったCloud9という会社で学習型ユニバーサルリモコンを売ろうとしたが鳴かず飛ばずだった話も尻切れとんぼだし、書いてないことが多すぎて胸がいっぱいになる。リモコンのデザインを頼んだ会社に突然Jobsが現われてリモコンを壁に投げつけたという話は出てくるのだが。

こういう疑問やら文体への文句やらが沢山Amazon.comの書評に掲載されているのだが、それにいちいちGina Smith氏が弁明してるのが香ばしい。自慢が多すぎると書かれたら「でも実際のWozはとってもいい人なのよ」などと返してみたり、自分でコメントしまくってAmazonの評価上げるんじゃねぇぞゴルァと言われたら慌ててコメント削除しまくったり、厨房かお前はと言いたい。厨房に国境なし。

最後にWozは、何かを発明したければ深夜にひとりで籠ってやるのが良いとアドバイスしている。それでうまくいく場合もあるかもしれないが、うまくいかないことも多そうな気はする。結局「Wozはやっぱり凄いハッカーだったのね」ということ以外なんかよくわからずに糸冬了してしまったのであった。
 

コメント    

2006年11月26日
19:44
007(羽尻)
パイレーツ・オブ・シリコンバレーってビデオに詳細に描かれてますよ、上記のこと。

日本では「バトル・オブ・シリコンバレー」としてレンタル専用ですがダビングしたのでお送りしましょうか?
2006年11月26日
20:04
i16(愛一郎)@一陽來復
マックのときもマックの何かの回路作ったんじゃないっけ違ったっけ。Incredible Woz Machineてのは回路の名前になってただけでWozが直接作業したわけじゃないのかな。。。
iWozとか言っても「iなんとか」の時代とは無関係であるのは確かでしょうし、何かナゾな本みたいですね。

ところで8080でなくて8008でBasic動かしてたんなら結構凄いんでは。DDJの最初の頃に載ったアレが既に8080だったんですよねえ。

老後の楽しみ用とか言ってむかし秋葉原で8008買って持ってるんだけど普通に部品箱に入れてたから中とかサビちゃったかなあ?18ピンなのがスゴイと思いましたけど。インテルが大きいパッケージのラインを持ってなかったかなんかでピンが時分割になったんでないっけ。

アップル2の頃の話というのは昔からあちこちで語られてるからそこを延々とやられても、って感じですか。
2006年11月26日
20:07
FUZZIO
アップル本はいっぱいあって、どれがいいのかよくわかりません。(笑)

今の所、一番のお気に入りはレボリューションインザバレーで、
http://www.amazon.co.jp/gp/product/0596007191/

アップルIIと別にすすんでいた、マッキントッシュの開発秘話(ソニーの人が極秘にFDDを開発していたので、ジョブスが来た時、ロッカーに隠れた実話、開発者が組織の中でクビにさせられるような話とか)がいっぱいで、OSXが出る前に出てたら、感動したかも。

自分も自社開発製品があるけど、それを世の中に出すのに、どう組織で動いていくのか、この本を読んで大変参考になりました。

もう読まれました?

序文はWozが書いてます。
2006年11月26日
22:30
はっ.ぴー東京
エレガント、これですね!
2006年11月27日
03:53
大富豪家2.0
情報ありがとうございます > 羽尻様
URLが右にはみ出して読みにくいので書き直します。

> 羽尻公一郎
> さっきのドラマ、ここで買えます。
> http://www.amazon.com/Pirates-Silicon-Valley-Anthony-Michael/dp/B0009NSCS0/sr=1-1/
2006年11月27日
04:00
大富豪家2.0
様々なApple本/ドラマは嘘が多いんだそうです。

* JobsとWozは同時に高校に行っていない。歳がもっと違う。
* 自分はコロラド大をドロップアウトしていない。
* AppleIもAppleIIもすべて自分が設計した。共同作業ではない。
* Appleをやめてはいない。社員バッジをまだ持ってるし最低限の給料を貰っている。
* 何か不満でAppleをやめたわけではなく、別の会社(Cloud9)を作りたくて会社を離れたのである。

割とどっちでも良い話ではありますが... AppleIIもケースはWozじゃないでしょうし。それより喧嘩話を(ry
2006年11月27日
05:02
i16(愛一郎)@一陽來復
Wozにとっては回路がすべてであろうから『すべて自分が設計した』で合ってるようなww。
Apple IIもあのケースは「すべて」以外の「ただのケース」に過ぎないんでしょう。Apple Iはケースなかったし。
Apple IとApple IIの違いもきっと「そういえばIIのほうはケースを付けて売った」ぐらいの感覚だったりするのかしんない。
2006年11月27日
12:45
007(羽尻)
先に述べたDVDでは喧嘩話ばっかりです(w
2006年11月27日
13:47
大富豪家2.0
日本版見たいですぅ!
2006年11月27日
14:11
007(羽尻)
VHSお送りしましょうか?
2006年11月27日
14:42
007(羽尻)
ちょっと反則ですが、You Tubeで検索したら結構出てきます。
2006年11月27日
22:06
yomoyomo
iWozについては山形浩生が査読評価書を公開してますが、やはり面白くない、あまり読む価値なしという評価ですね
http://cruel.org/reading/iwoz.html
2006年11月28日
01:40
大富豪家2.0
流石よくまとまってますね。

> また天才の常として、自分がなぜそういう非凡な
> 着想ができるのかがわかっていない。

なるほどねぇ...

でもLinus本すら訳が出てるんだから、面白くなくても出版されてほしい気もします。
2006年11月28日
04:59
i16(愛一郎)@一陽來復
そりゃ山形浩生さんが読んだって面白いはずないと思いますけどw

でもまあwoz本人の意識ではこのままの人なんでしょうねえ。
やっぱアップルIIのケースの価値は理解しないんでアップルはIもIIもすべてwozが作ったんでしょうwozの意識する価値のある部分は100%。

あのアップルIIの話なのに性能に関係ないケースはコンピュータの価値の一部ではないという理解をしてる人の言葉が読めると言うことを面白いと感じない人が読んでも面白いはずもないし。

アップルIIIがどうしてダメだったのか全く理解してなさそうなところもスゴイw

喧嘩や人間模様にまるで興味がないひとなら伝記の一部としてそういうものが入ることは有り得ないとかそんなことだったりして。

2006年11月28日
05:05
大富豪家2.0
レボリューションインザバレーを読んでみたいと思います。
Apple IIIって何が駄目だったんですか? (そもそも全然知らない)
2006年11月28日
05:41
i16(愛一郎)@一陽來復
えー。見ただけで欲しくなくなっちゃうじゃん。
http://ja.wikipedia.org/wiki/Apple_III
2006年11月28日
14:05
大富豪家2.0
ちゃんと動いたならよかったんでしょうけどね... > AppleIII

> アップルIIのケースの価値は理解しない

確かにケースの話は一言も出てきませんでしたね。
2006年11月28日
15:48
i16(愛一郎)@一陽來復
うちに古いBYTEが捨てずに取ってあるんですけどアップルII新発売のカラー広告があるww
当時カラー広告は大メーカーしか出さなかったんでまさかガレージメーカーとは思えずww
オルテアやせいぜいワンボードのの時代にあの見栄えですから。
いま見ても欲しくなっちゃうような勢いの広告でしたねえ。
僕は結局最後まで買えなかったんだけど、おもちゃとして買って遊び倒した人にとっては安い買い物だったでしょうねえ。
まあオモチャならコストパフォーマンスはどれだけ面白いかで計るわけだから測りようがないとも言えますが。

アップルIIIはビジネス用というには、事務用品のコストパフォーマンスを向上するコスト配分はオモチャの場合と違うし、コストパフォーマンスが低く、オモチャにしちゃまた余計な事になっててコストパフォーマンスがやっぱり低くて、結局誰が買うんだか不明の誰も欲しがらないマシンを作って、しかもそのために当時まだみんなが欲しがっていたアップルIIの供給を絞ったり改良を停止したりしてたんだから、やっぱだめじゃんでしたねえ。

当時だからネットじゃなくて雑誌とかコンピュータ系サークルやアルバイト先での雑談とか情報はそんなあたりだったと思いますが。