界面駭客日記(11) - キーボードマニア大集合 増井俊之


先日、 キーボードマニアでもあるライターの 美崎薫氏[*1]、 日本語入力コンサルタントの 増田忠士氏[*2]と ミサワホームの主催で 「キーボード集会2001」が開催されました。 キーボードや日本語入力方式に関心のある人間が50人ほど集まり、 キーボードに対する熱い思いを語ったり 新しいキーボードの紹介を行なったりしました。

現在、計算機を操作するのに、 99%以上の人はいわゆる「QWERTY」キーボードを使っていると思われます。 また、ローマ字入力でかな漢字変換を行なっている人も多いと思います。 しかしこれらの組み合わせは決して最良のものではありません。 QWERTYキーボードはもともとは機械式のタイプライタのために 開発された配列であり、 効率良く文字を入力できないことは広く知られているにもかかわらず、 歴史的な理由のみにより現在でも広く使われています。 また、 ASCIIキーボードによるローマ字で日本語を表現するのは あまり効率が良い方法ではありません。 日本語は撥音/拗音/促音が他用されるにもかかわらず それらをローマ字では簡単に表現しにくいからです。 QWERTYキーボードやローマ字入力に不満を感じ、 それに変わる様々な方法を開発している人は多く、 今回の集会では そのような人達が沢山集まって議論を行ないました。

標準的でないキーボードや入力方式には 以下のような種類があります。

キーボード集会で紹介されたシステムの中から いくつかを紹介します。

「らっこ」キーボード

キーボードや入力手法の研究を永年行なっている 冨樫雅文氏[*3]は、 「超多段シフト方式」の「風」という配列の提案などで有名ですが、 今回は「らっこ」というモバイル向け小型キーボードをかかえて登場しました。

「らっこ」キーボード

「らっこ」は、一般的な101/106キーボードをモバイル環境でも 使えるように折り畳んだものです。 表裏両面にキーを配置することにより、 小さな装置に沢山のキーを配置することが可能になり、 またキーボードを机に固定しなくても キー入力を行なうことができるという特徴があります。

ナラコード

(株)ナラコム の奈良總一郎氏は、 拗音を含む読みを特に入力しやすくした かなキーボードの 「ナラコード」というキーボード配列[*4] を長年提案しています。

ナラコードのキーボードは、一見普通のPCキーボードに見えますが、 かなキーが五十音順に並んでいるために 初心者にとってわかりやすいのに加え、 「ひょう」「きゅう」のように拗音/促音/撥音を含む 頻出する読みがそのままキーボードに 割り当てられているため、 「にゅうりょく」を2キーストロークで入力したり、 「ちゅうしょうきぎょう」を4キーストロークで入力したり することができます。 奈良氏は、 全国160万の企業のうち50万の企業でまだパソコンを導入できていない理由は ローマ字が使えない人が多いからであり、 ナラコードのキーボードを使えばそういう問題は解決されるのだと 主張していました。

TRONキーボード

東京大学の坂村健教授のTRONプロジェクトでは、 BTRONサブプロジェクト[*5]において、 日本語入力の負担を軽くする 「TRONキーボード」の仕様を決めています。 TRONキーボードは昔一度製品化されたことがあるのですが、 最近は市販されていません。 しかし、美崎さんをはじめとして、 古くからの熱狂的なファンも多く、 再度製品化を望む声が高まっていました。 このようなユーザの要望は、最近「商品化お頼みサイト」の tanomi.com[*6] において結実し、 TRONキーボードの限定製造販売が行なわれることになったそうで、 今回はそのプロトタイプが持ち込まれていました。

伸縮キーボード

エコエルグ研究所[*7]は、 折り畳み可能なポータブルキーボードを紹介していました。 小さく折り畳んだ状態では写真のようにCDケース程度の大きさですが、 両側を引き延ばすとフルキーボードに近い大きさになります。

折り畳みキーボードとしては PalmやPocketPC向けの TARGUS社のStowaway Keyboardが最近人気があるようですが、 エコエルグ社のものもなかなか良さそうで、今後が楽しみです。

CutKeyファミリー

ミサワホームは従来から 片手で日本語を簡単に入力できる 「 CUT Key[*8] 」を販売していますが、 さらにこれを使いやすくした 「CUT Key Pocket」を紹介していました。

CUT Key Pocketは正式には Windows98、Windows2000のみの対応ですが、 USBキーボードに対応したLinuxマシンでも使うことができるようです。 ミサワホームでは、Palmのグラフィティ入力エリアを CUT Keyのように使う 「CUT Key Palm」も販売予定だということでした。

テンキー

CUT Keyは テンキーのような小さなキーボードで日本語を簡単に 入力できるようにしたものですが、 テンキーを使った他の入力手法についても いくつか紹介がありました。
携帯電話の日本語入力手法については現在多くの会社がしのぎを削っています。 欧米の携帯電話でシェアを獲得しているTegic社は 曖昧文字指定を用いた携帯入力手法「T9」の日本語版を 積極的に売り込んでいますし、 T9と似た入力手法「eZiText」を開発している Zi Corporationも日本語対応版を開発したということです。 今回の集会でははキーボードに関連した入力手法に興味のある人達だけが 集まって議論を行ないましたが、 テキスト入力手法としては文字認識や音声認識なども考えられますから、 それらも考慮すると本当に沢山の方式が考えられます。 入力手法に関する最新情報は 私のページ[*9]でまとめていますので 興味のある方はぜひご覧下さい。
  1. http://member.nifty.ne.jp/misaki_kaoru/
  2. http://member.nifty.ne.jp/kb/
  3. http://member.nifty.ne.jp/togasi/
  4. http://www.naracom.co.jp/naracode/what.html
  5. http://tron.um.u-tokyo.ac.jp/TRON/proj95/BTRON.html
  6. http://www.tanomi.com/items/tron/
  7. http://www.ecoerg.co.jp/
  8. http://www.misawa.co.jp/CUTKEY/
  9. http://www.csl.sony.co.jp/person/masui/OpenPOBox/info/InputMethods.html

Toshiyuki Masui