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界面駭客日記(20) - どこでもキーボード 増井俊之


携帯端末の文字入力手法として、 ジェスチャを用いるものや特殊な入力装置を用いるものが 多数提案されていますが、 パソコンなどに慣れた人はやはり キーボードでの操作を好むことが多いと思われます。 このため、 普通の計算機キーボードが使えない環境でも 英数字キーボードが使えるようにするための手法や装置が いろいろ開発されています。

英数字ソフトキーボードの工夫

計算機の英数字キーボードとして現在最も広く使われている いわゆる“Qwerty”配列は、 もともと両手で操作する機械式タイプライタのために設計されたものであり、 近い位置にあるキーが連続的に押されることがあまり多くないような 配置になっていると言われています。 このため、ひとつの単語を入力する場合でも、 遠く離れた位置にあるキーを順番に押していかなければ ならないことがよくあります。 たとえば “element” や “product” のような単語を入力しようとすると、 右手の指と左手の指を交互に使う必要があります。 両手で文字を入力する場合はこの方が都合がよいのですが、 ペン計算機上のQwerty配列のソフトキーボードでこのような単語を入力する場合、 ペンを何度も左右に動かす必要があるので、 高速に単語を入力することができません。 ペン計算機のソフトキーボードでは、続けて使われることが多い文字を 近くに配置する方が効率良く単語入力を行なうことができるはずであり、 Qwerty配列とは全く異なる設計方針のキーボード配列を使う方がよいはずです。 このような考えにもとづいた、 ペン計算機用のキーボード配列がいくつか考案されています。

Fitaly配列

Fitaly配列

Fitaly配列[*1]は、 ソフトキーボードでのペンの動きを最適化するために考えられた 配列で、 “e”と“r”、 “l”と“y” などのように よく一緒に使われる文字が隣り合って配置されています。 このような配置の結果、キーボードの2行目には “FITALY”という文字が並んでいます。 英語では空白文字が最も多く使われるため、 空白文字のために左右に大きな領域が割当てられています。
Fitaly配列では、 “element” も “product” も 一筆書きに近いペンの動きで入力することができます。

FitalyStamp

上図は“FitalyStamp”という製品で、 PalmのGraffitiエリアにシールを貼ることにより、 Graffitiのかわりに Fitaly配列キーボードを使うことができます。

Funady配列


Funady配列

Funady配列は、 Palm用の “QuickWrite”[*2]という 予測入力ソフトで使われているソフトキーボード配列です。 QuickWriteでは 普通のQwerty配列なども使えるようになっていますが、 斜めに“funady”という文字列が見える Funady配列が使えるのが大きな特徴になっています。 Fitaly配列と同様の考え方により、 よく使われる文字の組み合わせが近い場所に配置される ようになっていますが、 “x”や“z”を左下に配置するなど、 Fitaly配列よりもQwerty配列に近くする工夫がされているようです。

Metropolis配列

Metropolis配列
Metropolis配列[*3]は IBMのアルマデン研究所で開発されたソフトキーボード配列です。 膨大な英語テキストを解析し、 ペンの移動量が少なくてすむ配列を計算して配列を決定したと いうことですが、 移動量を小さくすることだけを目標にすると アルファベットの並びがランダムに近くなってしまい 記憶するのが難しくなってしまうため、 アルファベットの最初に来るa, b, cのような文字がなるべく左側に配置され、 x, y, zのような文字がなるべく右側に配置されるような工夫がなされています。


ソフトキーボードで これらの配列を使うと確かに文字入力が速くると思われますが、 配列を覚えるまでには練習が必要で時間がかかりますから、 どの程度頻繁にソフトキーボードを使うかによって これらの手法を使うかどうかを決める必要があるでしょう。

かなソフトキーボードの工夫

上で紹介したような各配列は、 英語をもとに作成されているため、 ローマ字の入力には必ずしも向いているとは限りません。 また、日本語入力の場合はかなキーボードを使った方が 効果的と思われます。

PalmKanaKB

Palm Kana Keyboard

私はPalmで日本語を入力するときは 上図のような五十音ソフトキーボードを使っています。 五十音ソフトキーボードは Zaurusをはじめとする各種のPDAで採用されていますが、 「社長(しゃちょう)」のように拗音を多く含む単語の 読みを入力するのに時間がかかります。 また、日本語では 「かい」「こう」のように二重母音をもつ単語が多いので、 これらを簡単に入力できるようにするために以下のような 工夫をしています。

例えば、「か」キーをタップした後、 右にペンを動かしてから離すと「かい」が入力され、 下にペンを動かしてから離すと「かん」が入力されます。 また、「か」をタップしてから左にペンを動かして離すと 「きゃ」が入力され、 「こ」をタップしてから左にペンを動かして離すと 「きょ」が入力ます。

「しゅう」「きょう」のように、読みが「ゅう」「ょう」で 終わるものは特に多いので、以下のような特殊規則も 使っています。

例えば、「き」をタップしてから上にペンを動かして離すと (「きう」のかわりに)「きゅう」が入力され、 例えば、「け」をタップしてから上にペンを動かして離すと (「けう」のかわりに)「きょう」が入力されます。 その他、キーを長い時間押し続けた場合は濁音が付加される ようにしているので、 「ちゅうしょうきぎょう」のような文字列を 以下のように4操作で入力することができます。

ちゅう「ち」をタップして上にドラッグ
しょう「せ」をタップして上にドラッグ
「き」をタップ
ぎょう「け」をタップし、一瞬おいてから上にドラッグ

PalmKanaKBは私のWebページ[*4] からダウンロードすることができます。

何もないところで使うキーボード

キーボードを持ち歩くのは嫌だが ソフトキーボードでは満足できないという人のために、 任意の平面をキーボードとして使うことができるようにする 装置が最近いくつか発表されています。

Senseboard Virtual Keyboard

Senseboard Virtual Keyboard

Senseboard Virtual Keyboard[*5]は、 両手の甲に取り付けたセンサで指の動きを検出することにより、 どこでもキーボード操作ができるようにしたシステムです。 キーボード信号はケーブルまたはBluetoothでPDAなどに送られます。 手と指の相対位置でキー操作を検出するため、 実際に板などを指で叩かなくても 空中でキーボード操作を行なうことができるということです。

VKB

VKB

VKB[*6]は、 平面上にキーボードの画像を投影し、 その上での指の動きを検出することにより 任意の平面をキーボードとして使えるようにするデバイスです。 技術の詳細は明らかではありませんが、 画像投影装置と 赤外線を使った3次元位置センシング装置が 一体にしたものだということです。


何もないところで指を動かすだけでキーボードを打ちたいというのは 長い間の夢でしたが、本当にそのようなことを可能にする製品が 発表されたことは驚くべきことです。 まだ実際の製品は販売されていないようですが、 ぜひ早く手に入れて使ってみたいと思っています。 何もないところで指を動かす人というのはかなり無気味でしょうが...

  1. Fitaly
    http://fitaly.com/
  2. QuickWrite
    http://www.mobi-systems.com/quickwrite_en/
  3. Metropolis Layout
    http://www.almaden.ibm.com/cs/people/zhai/topics/virtualkeyboard.htm
  4. Palm Kana Keyboard
    http://www.csl.sony.co.jp/person/masui/PalmKanaKB
  5. Senseboard
    http://www.senseboard.com/
  6. VKB
    http://www.vkb.co.il/

Toshiyuki Masui