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界面駭客日記(21) - 写真整理地獄 増井俊之


誰もが気軽にデジカメで大量の写真をとる時代になってきました。 銀塩写真の場合は、 フィルムも現像も結構お金がかかりますから、 1年に何千枚も写真をとる人はほとんどおらず、 写真の整理に悩む人の数も少なかったと思われますますが、 最近は写真を撮ることを仕事や趣味にしない人でも、 1日に10枚ぐらい写真をとるのが珍しくなくなってきました。 このベースで写真を撮ると、 1年で数千枚の写真がたまってしまうことになります。
私も最近は平均するとそれぐらいデジカメ写真を撮っているため、 計算機のディスクの中身が写真画像だらけになってきました。 写真が数百枚程度であればまだ良いのですが、 数千枚/数万枚という量になってくると、 整理したり検索したりするのはひと苦労というか、 ほとんど不可能になりつつあります。

画像を内容から検索する手法に関しては、 長年にわたり様々な研究が行なわれてきています。 色/形/テクスチャといった画像の特徴量を検索に使用する方法や、 検索対象となる画像を領域に分割したり 形状を抽出したりして検索条件とのマッチングをとる方法など、 様々な方法が提案されてはいますが、 インターネット上の画像検索や 個人の画像検索において便利に使われている技術は まだあまり存在しないようです。 今のところ、実用的には

のような方法が使われています。

テキスト検索は画像内容の検索に比べると枯れた技術ですし、 テキストベースの検索システムをそのまま使うことができますから、 キーワードが付加された画像に対しては キーワードで画像を検索する方法は効果的です。 インターネット上の画像ファイルには 内容を表現するファイル名がついているのが普通ですし、 画像の周囲にはその画像に関連するキーワードが存在 する可能性が高いので、 画像イメージそのものを検索に使用しなくても、 ファイル名や周囲のテキストを使ってテキスト検索を行なうことにより 多くの場合必要な画像をうまくみつけることができます。

自分のデジカメ画像を検索する場合には、 ファイル名を使うよりも、 撮影した場所や日時を使ってフィルタリングすれば うまくいくことが多いようです。 自分が作成した文書や写真を時間順に並べておけば、 日記や文書の作成日時をもとに画像を検索することができます。

このように テキストや作成時刻を検索に使える場合は良いのですが、 ファイル名もテキストも関連情報も存在しない大量の画像の 検索を行なわなければならないことも今後は多くなってくると 考えられます。 人からもらったデジカメ写真などの場合、 説明テキストも撮影時刻も検索に使用できませんから、 画像の内容を見ることにより検索を行なわなければならないでしょう。 このような場合、結局のところ、いかに大量の画像を見渡して 目視で検索を行なうことができるかどうかが成功の鍵となります。

サムネイル画像ビューワー

WindowsでもMacintoshでもUnixでも 様々なな種類の画像ビューワーが販売されたり 配付されたりしています。

WindowsではInternet Explorerのフォルダウィンドウにおいて 「縮小表示」を選択すると画像サムネイルを表示することができますし、 画像ビューワとして広く使われている 「IrfanView」でもサムネイル画像を一覧表示することができます。


Explorerの「縮小表示」


IrfanViewのサムネイル表示

Macintoshでは、Appleが最近「iPhoto」という 画像ビューワーを無償で配付しており、 よく使われるようになりつつあります。


iPhoto

Unix上では X Window Systemで「xv」という画像ビューワが昔から広く使われており、 やはりサムネイル画像をブラウズすることができるようになっています。


xv

ズーミング画像ビューワー

サムネイル画像を一覧表示してくれるビューワーは、 数百枚程度の画像の閲覧には便利なのですが、 数千枚レベルになると、 全容を把握するのはかなり難しくなってきてしまいます。 このような場合は、 ズーミングを利用したPhotoMesaという画像ビューワーを 使えば全体を把握しつつ閲覧を行なうことが可能です。

PhotoMesaは、メリーランド大学のBen Bederson教授が Javaで開発した「Jazz」というズーミングツールキットを用いて作られた、 ズーミング画像ブラウザです。 Jazzを使うと、 画像やGUI部品などJavaのあらゆるグラフィカル要素を 任意の倍率でなめらかに拡大/縮小することができますが、 これを画像ビューワーに利用したものがPhotoMesaです。 この図は数千枚の画像を縮小してひとつの画面に表示しているところですが、 このレベルから任意の場所をなめらかに拡大していくことができ、 それぞれの画像の細部まで連続的に拡大していくことができます。 また、画像の作成日時や画像ファイル名にもとづいて クラスタリングを行なうこともできるようになっています。


PhotoMesa

キーワードの自動付加

サムネイル型式の画像ビューワーやズーミング型の画像ビューワーは、 画像全体を閲覧するのには便利なのですが、 自分の撮った写真を整理したり検索したりする場合、 キーワードから検索できるようになっていた方が便利です。

オブジェクト指向や例示インターフェイスに関する研究で有名な、 MIT Media LaboのHenry Lieberman氏は、 デジカメ写真に簡単にアノテーションを付加することができる ARIAというシステムを開発しています。
あるユーザーが、写真を添付した電子メールを送ったとき、 写真の周囲のメールテキストとその写真とは深い関係があるはずですから、 そのメールテキストを写真の説明文書であると考えて、 後で検索に用いることができるはずです。 たとえばMITの見学に関するメールにMITの写真を添付した場合、 メール文中には「MIT」とか「見学」とかいったキーワードがある はずですから、そのようなキーワードを使ってその写真を後で検索 することができるようになります。
ARIAはこのような検索を動的に行ないます。 ユーザーが何かテキストを入力した場合、 常に画像検索エージェントが 関連する画像を検索してリストを表示します。 それらの画像をまた文章に添付することにより さらに画像に対する説明文書が追加されることになります。 ARIAでは、このような単純な操作によって 画像とテキストの関連をどんどん増やしていくことができますから、 デジカメ画像の整理を効率化することができます。


ARIA


現在のところ、 大量のデジカメ画像を効果的に管理したり検索したりするソフトの 決定版はまだ出現していないようです。 写真に時刻や位置を自動的に付加することがあたりまえになり、 画像に自動的にキーワードを付加することができるようになり、 画像の分類/検索手法が改良されるようになれば デジカメ画像がさらに活用されるようになるでしょう。


Toshiyuki Masui